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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)1627号 判決 1950年11月02日

被告人

鈴木義雄

主文

原判決を破棄する

本件を岐阜地方裁判所に差戻す

理由

弁護人亀井正男提出の控訴趣意書の要旨は

一、原審は犯罪事実に関する他の証拠調に先立つて被告人の自白調書を取調べたのは違法である。

二、被告人が本件の自転車を遊興費の担保に差入れた点について、当該飲食店の関係人は何れも之を否認して居る。果して然らば原判決挙示の証拠だけでは充分でなく、従つて原判決は審理不尽の違法がある。

と謂ふにあり。

被告人提出の控訴趣意の要旨は、本件の自転車は盗難に罹つたのであつて原審には事実の誤認がある。と謂ふにある

検事は控訴理由なしとして棄却を求めた。

依つて原審公判調書を通看するに、第一回公判調書の記載に依れば原審検察官は被告人に対する司法警察員並検察事務官作成の供述調書(自白)は犯罪事実に関する他の証拠の最後に取調の請求をしてあり、且つ之を最先に取調べた旨の記載が無いから、原審は右請求の順序に従つて取調べたものと看るの外なく、従つて此点に関する論旨は理由が無いが、原判決書の記載に依れば原審は本件犯罪事実の証拠として

一、蟹江光子に対する司法警察員の供述調書

二、蟹江光子の上申書

三、被告人に対する司法警察員の供述調書

四、被告人に対する検察事務官の供述調書

を引用挙示してあるから、此点に就て按ずるに、右一、二の証拠は何れも「被告人に本件の自転車を貸与したところ未だ返還を受けない」と謂ふに帰着し右三、四の証拠は被告人の供述として「本件の自転車を氏名不詳の料理店に遊興費の担保として差入れた」旨の自白であるから彼此綜合すれば本件犯罪事実の証拠として充分な様であるが、更に進んで考察するに、原審は被告人の指示に従ひ右料理店を検証し、且つ其際該料理店の経営に従事して居る服部志津ゑ、同さとゑ、同重右衛門、同一一を証人として取調べたところ同人等は何れも「被告人から自転車を担保にとつたことが無い」と供述するのであるから、茲に於て被告人の前記自白調書が果して証拠能力を有するや否や頗る疑問であると謂はざるを得ない。依つて此点に就て考察するに、原審第一回公判調書の記載に依れば被告人の供述として、「警察でも検察庁でも本件の自転車は盗まれたのであると一応は供述したのであるが警察でもそんなことは嘘だと言つて取上げて呉れず、裁判所の勾留尋問のときも盗まれた事を申したところ細い事は法廷で言へといつて取上げて呉れなかつた」旨の記載がある。依つて右記載と前記各証人の供述記載とを綜合すれば、原審引用の前記自白調書は、被告人の不任意に基くものであり、且つ不相当なものであるから、刑事訴訟法第三百二十二条、第三百二十六条に従ひ其証拠能力を否定しなければならないものである。(尤も被告人提出の上申書並原審第二回公判調書の各記載に依れば、被告人は従来の否認を翻し、更めて本件犯行を自認した旨の記載はあるが、右は被告人が保釈を熱望するの余、原審裁判官に対し其所信に反する供述を為すに至つたものであることは該上申書の記載自体に於て充分之を推察することができるから、原審も右上申書を証拠として採用しなかつたものと思はれる)然らば原審引用挙示の爾余の証拠を以てしては被告人の本件犯行は之を認定するに由の無いものであるから此点に於て原審は判決に影響すべき訴訟手続の違背があると謂はなければならない。

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